novel

 

 

 

―――子供が泣いている。
広すぎる部屋の隅にうずくまって、たった一人で。

嗚呼誰か、あの子を抱きしめてやればいいのに。

 

 

 

獰猛なほどに照り付けていた夏の太陽も、少しだけ穏やかさを見せ始める季節。
9月。
名門、私立陽虎学園は、2学期を迎えていた。
去り行く8月を惜しみ、多くの生徒が足取り重く登校する中、
意気揚々と学園内の中庭を闊歩する一人の少年がいた。
真紅の燕尾をなびかせるその姿は、遠目から見ても凛々しく、
どこか気品さえ感じさせる程だ。
すっと通った鼻筋に、控えめな桜色の口唇。透き通るように白く瑞々しい肌。
一見少女のように整った顔立ちだが、清んだ瞳の奥には、
聡明で快活な少年らしい光が輝いていた。
「さぁ、今日から慌しくなるぞ。」
一人つぶやきながら、その表情に微笑を隠せない。
なにせ夏休みは、少年―――陸遜にとって、ひどく退屈なものでしかなかったから。

否、去年までの彼は、比較した何かを退屈だと思うほど、心動かされる存在を持たなかった。
まだ幼かったあの日。
己の運命を受け入れたあの時から、感情なんてものは死んだのだと思っていた。
ただただ、灰色の毎日を淡々と過ごす。それが当たり前になっていたはずだった。
そんな生活が、この春、陽虎学園高等部に進学してから一変した。
もっと言えば、生徒会に所属してから、だ。
生まれて初めて、冗談を言い合えるような友を持ち、可愛がってくれる先輩を得た。
尊敬できる、師と呼べるような教師とも出会えた。

陸遜の心には、それだけでは埋められない空洞があったが、
それでも彼は幸せだった。
学校に、生徒会室にいるときだけ、嫌なことは忘れられた。
自分でいることを許されているような、そんな気がしていた。

 

□突発的に書き始めました、学園甘陸←凌。多分続く。□